宇庵編笠門修復・材料集め 庭盛会の活動

コロナで様子見していた九つ井宇庵での庭園修復活動もようやく回り始めました。

宇庵の内露地と外露地の境には、屋根がモコッと膨らんでまるで帽子の様な、なんとも風変わりな庭門が建っています。武者小路千家の官休庵や大徳寺孤蓬庵で知られる編笠門です。作庭を手掛けた安諸定男氏がご自身の作庭によく用いられる意匠で、土塀と並んで氏の代名詞とも冠されています。建てられてからおよそ30年経ち、職員さんが自分で応急処置を重ねた結果原形からほど遠くなってしまったので、正当なやり方で屋根を葺き替えて元の姿に戻したいというお話を頂きました。

庭師は庭門もやります。とはいえ、ちゃんとしたものを作るには手間も予算もかかり、作り手に相応の力を求められるのでそう頻繁に機会があるものではありません。私も一度、数年前に安諸氏の講習会で習ったきりです。もちろんそんな私が一人で請け負うわけではなく、安諸氏の所に長年出入りして宇庵含め九つ井の庭を任されており、庭盛会の発起人の一人でもある大先輩の指揮のもと、経験豊かな手練れの仲間達と取り組みます。それでも、宇庵の編笠門といえば安諸氏の代表作の一つであり、何度か雑誌に取り上げられて目当てのお客様も多いそうで、、屋根の葺き替えのみとはいえ現会長を任せて貰っている身としては、重圧とやり甲斐がとんでもない事になっています。

手始めに、屋根材に使われている杉皮の調達に動きました。杉皮は中国産のものが容易に手に入りますが、この空間に佇む編笠門に用いるのはやはり良質な国産材でありたい。この様な仕事に携われる機会は滅多に無い事なので、産地の視察も兼ねて有志一同で奈良の吉野まで調達に走りました。

神奈川から7時間近く走り、朝イチで材木屋さんに材料を見せて貰いました。丁寧な処理で虫も付いておらず、写真では分かりづらいですが等級でかなり違いもあります。直に現物を見るのはやはり良い、というか良い仕事をするためには必須ですね。我々の使い方にはどれが適しているか、価格を踏まえつつしっかりと検討する事が出来ました。普通に取り寄せるとなると国産の杉皮は正直高いけど、良い製造元を探し、現地に赴いて交渉し、と、最初に一手間かければ決して非日常的で贅沢な材料では無いんですね。

首尾よく買い付けを済ませたら、近在の社寺や滝などを見て回りました。天川辨財天・金峯山寺・吉野水分神社・龍穴神社、、大峯奥駈道が走り、修験道の聖地とも言えるこの地はなるほど力強い空間が多い。このところ滝巡りをしながら徐々に分かってきた事ですが、自分の作庭に活かすなどといった下心で踏み入るのではなく、畏敬を持って自然に接する精神こそが私達庭師に必要なものなんだと改めて感じさせて貰いました。

猛烈に濃い一日を奈良で過ごし、湘南の我が家に戻ってきたのはほとんど夜明け前でした。身体はそりゃあクタクタ、ですが心はなんだか凝りがほぐれた様な。

メインの材料は無事仕入れました。さぁ、良い仕事をしよう。

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